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砂防指定地内の砂防樹林帯におけるカーボン・クレジット化に向けて

 砂防指定地内の砂防樹林帯は、土砂災害の防止だけでなく、砂防樹林帯の生物多様性や地球温暖化防止などの付加価値を持っており、持続可能な社会の構築を目指す今日において、ますます重要視されています。(図1 参照)

 当機構は、砂防指定地やその周辺の保全整備と管理に関する調査研究と経験に基づいて、砂防指定地内の砂防樹林帯におけるカーボン・クレジット化を含む二酸化炭素の吸収機能に関する調査研究を行っています。

 

※専門的用語が多数あります。別添に用語集をつけていますので参照願います

 

背景

 1997年に京都で開催された第3回気候変動枠組条約締約国会議(COP3)で採択された「京都議定書」において、日本は1990年比で2008~2012年に6%の温室効果ガス排出削減を義務づけられ、この目標を達成しました。

 また、パリ協定の下では、日本は2030年までに温室効果ガス排出量を2013年比で46%削減し、2050年までに完全なカーボンニュートラルを実現することを目標に設定しています。

 一方、国土交通省砂防分野においてもこれの実現と気候変動への対応等のため、「国土交通省グリーンチャレンジ」等に基づき、グリーンインフラ・カーボンニュートラルを推進しているところです。

 あわせて、日本の森林での温室効果ガスの排出と吸収量は、国連の温室効果ガスインベントリによって計算および報告されており、これらの目標達成に向けて、森林管理に関連するカーボン・クレジットの取組みが進展し、確立されつつあります。   

 

自主研究の内容

 

 里山砂防事業や都市山麓グリーンベルト整備事業、砂防林の整備事業などによる砂防樹林帯の整備・維持管理について、砂防部局は防災対策や気候変動への対応を通じてグリーンインフラとして活用しており、一部は地域住民・団体の手によって樹林の育成が図られているところです。一方、生長している樹林の二酸化炭素吸収効果を定量的に評価する手法が確立されていない状況です。

 そこで当機構は、2023年から砂防指定地において、樹林地を整備・維持管理することによる地球温暖化対策(二酸化炭素の吸収)への貢献を評価することを目的とした『砂防指定地内の砂防樹林帯におけるカーボン・クレジット化に向けて』という自主研究をはじめました。

研究成果

 

 自主研究では、モデル砂防指定地の砂防樹林帯において、年間でヘクタールあたり4~6トンのCO2吸収量が試算されました。(表1 参照)

 この研究成果を受けて、砂防指定地内の砂防指定地における砂防樹林帯の整備・維持管理による、二酸化炭素吸収効果の定量評価(年間○トン)に向けて、以下に示す大きく3つの方向性(目標①~③)を設定することができました。

 

  目標①: 自主的に砂防事業主体がCO2吸収量を計算し、公表することでカーボンニュートラルに貢献しているとアピールすることは可能と思われます。

 

  目標②: 現行のスキームを活用(または修正申請)できる砂防指定地では、J-クレジット化の可能性が高いと思われます。

 

  目標③: J-クレジット化へのハードルは高いものの、新たな方法論「(仮称):砂防林保全活動(SA-001)」を新規申請することを検討します。

 

 

 そして、例えば砂防指定地(土地)の管理者と維持管理の協定を結び、その活動資金の一部としてクレジット化を活用することは、砂防樹林帯の更なる整備推進と持続可能な活動に貢献する可能性があります。以下に、目標①~③の内容を整理しました。

 

●目標①

 砂防部局(事業主体)としてCO2吸収量を計算し、公表してアピールすることは現段階で可能と思われます。

 CO2吸収量を公表することでグリーンインフラとしてその価値を発信していきます。

 樹林整備の取組を一層推進するためには、消費者やステークホルダーに対してその取組の意義や効果を説明することが非常に重要です。このため、林野庁では森林によるCO2吸収量の計算支援などの取組を一覧として周知し、樹林整備の成果をアピールすること(見える化)を目指しています。この「見える化」シートに基づく計算はJ-クレジットなどの公的認証手続きを伴わないもので、各主体が独自の樹林整備の成果を外部にPRする際に、【「簡易な『見える化』計算シート」(東京大学大学院龍原哲准教授監修)に基づく計算】​という説明を付けて使用できます。

 この方法は、大きな課題は存在しないため、すぐにでも砂防指定地内砂防樹林帯の整備・維持管理によるCO2吸収量をPRすることができます。また砂防樹林帯の樹種ごとの面積や林齢の確認、スギ・ヒノキ・カラマツなどの樹木の立木本数、樹高、胸高直径のモニタリングを行うことで、計算の精度が向上します。

(林野庁HP参考URL:https://www.rinya.maff.go.jp/j/press/kikaku/attach/pdf/220218-3.pdf

 

●目標②

 現行のJ-クレジットのスキーム【添付資料-3参照】に適合させる、あるいは修正申請として森林経営活動(方法論FO-001)の制限林(※)に砂防指定地(砂防樹林帯)を加えることが考えられます。

 例えば土岐川流域グリーンベルト整備事業(虎渓山地区)の事例のように、県有林であっても地域森林計画対象森林であり、その他の諸要件を満たせば所有者(県)自ら又は所有者(県)から森林経営の委託を受けた者による森林経営計画の策定がなされれば可能とされています。あわせて、この手法では、パリ協定の削減目標にも貢献できるものと考えられます。

 課題としましては、砂防樹林帯がIPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)の地域森林計画対象森林(森林法5条で定義する森林)に該当しない可能性があります。さらに、森林法11条に基づく森林経営計画が策定されないか、あるいは森林経営計画の内容が森林の保護のみで間伐などの施業を実施しない場合は、「方法論FO-001」の適応条件を満たさないことが懸念されます。【添付資料-1参照】

 

 ※制限林とは、保安林、保安施設地区、国立公園(特別保護地区、第1種特別地域、第2種特別地域に限る)、国定公園(国立公園と同じ)、自然環境保全地域特別地区及び特別母樹林に指定された森林です。

 

●目標③【添付資料-1参照】

 森林管理プロジェクトに、新しい方法論「(仮称):砂防樹林帯保全活動(SA-001)」の新規申請の可能性を検討しています。前記の目標②が実現できれば、砂防独自での方法論の確立も可能となると考えられます。

 例えば、六甲山系都市山麓グリーンベルト整備事業などのように、森林経営を主たる目的としない地域住民や地元企業などの活力によって支えられる「(仮称)砂防樹林帯保全活動(SA-001)」に関する方法論のアプローチは、森林管理プロジェクトの「森林経営活動(FO-001)」に準拠しています。

しかしながら、現行の森林管理プロジェクト(FO-001~003)の枠組みでは扱われていないため、砂防法に基づく「(仮称)砂防樹林帯保全活動(SA-001)」に新たに組み込もうという試みです。これは、京都議定書の対象森林に制約を設けず、適切な砂防樹林帯の保全に焦点を当て、中~長期的な森林の吸収量を確保・強化する新たな方法論としての可能性があります。

 今後の課題としましては、 「(仮称)砂防樹林帯保全活動(SA-001)」は、経営を主たる目的としないプロジェクトですので、京都議定書の「森林経営(FM)」として認められるための方策を検討する必要があります。このため、J-クレジットの制度管理者である「経済産業省/環境省/農林水産省(林野庁)」に対して、砂防部局としての貢献度を示す指標(吸収量/実現性など)を作成する必要があります。(図2 参照)

 また、 「森林経営計画」の代替となる「(仮称)砂防樹林帯保全計画」や一般論計画または個別計画の策定を求められる可能性も考えられます。

 その上で、新たな「方法論」の提案とプロジェクト計画書の提出が必要となります。さらに、農林水産省(林野庁)管轄外での森林プロジェクト管理や、計画策定の手順についてのマニュアルの検討、J-クレジットスキームの検討なども必要となるため、これらの項目についてさらなる研究が必要と考えられます。

 

【添付資料-1】農業、林業及びその他土地利用(AFOLU)のうち森林の枠組み ダウンロード

【添付資料-2】用語の説明 ダウンロード

【添付資料-3】現行のJ-クレジットのスキーム ダウンロード

あとがき

 砂防樹林帯において二酸化炭素吸収効果は明白であるものの、これらを定量的に把握しその効果を一般に広く示していくこと(アピール)が望まれます。

 また、クレジット化は里山砂防事業や都市山麓グリーンベルト整備事業、砂防林の整備事業に協力いただいている民間の方々や企業の皆様に対しての活動資金となることも考えられ、より樹林整備の活動が活発となり広がっていくことが期待されます。

問い合わせ先 : 企画調査部
TEL:03-5216-5872 FAX:03-3262-2201 e-mail:mail-kikaku